先生!なんでこんなに治療に回数がかかるんですか? 根管治療の話・第1回

家の土台に、手で石を一つずつ積んでいく水彩イラスト(かみふさ歯科診療所)

「先生、一体いつになったら治療終わるんですか?毎回来てもなんか同じことやってるし、進まないし、もう3ヶ月も通ってるんですよ。」

診療室で、よく聞かれる質問です。

そう思いますよね。
わかります。

今日は、この疑問に正面からお答えしようと思います。

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毎回、同じに見えるのは

患者さんから見える毎回の治療は、だいたいこの3つです。

前回入れた薬を取り除く。
管の中を洗う。
新しい薬を入れて、封をする。

同じに見えますよね。

でも、じつは、時間を食っているのは、薬を出し入れするところではないんです。

時間がかかっているのは、薬を替えるところじゃない。管を広げるところです。

時間がかかるのは、ここ

歯の根の中には、神経や血管の通る細い管があります。「根管(こんかん)」といいます。

この管、まっすぐじゃありません。
細くて、曲がっていて、枝分かれしていることもある。

この管を、ファイルという細い針のような器具で、少しずつ広げていきます。広げるのは、細菌のついた壁を削り取って、根の先まで掃除を届かせるため。番号は先の太さで、#10なら0.1ミリ。#15、#20、#25、#30、#35、#40、#45、#50、 番号の小さい順に、一本ずつ替えながら広げていく。どこまで広げるかは、歯や管の形によって変わります。

ここが、いちばんの難関。

細いうちほど、一段の差が大きいんです。#10から#15で、先の太さは1.5倍。無理に進めると、器具が折れたり、管の向きがずれたりする。だから、一段ずつしか進めません。歯によっては、何回かの通院に分けて、少しずつ広げていきます。

とくに大変なのが「感染根管治療」。すでに神経をとってある歯や、神経が死んでしまった歯で、管の中に細菌が住み着いて、根の先の周りに炎症を起こしている場合です。住み着いた細菌は、歯の壁の奥の方まで入り込んでいることもあります。こういう歯は、管がほとんど閉じかけていることもあって、#10や#08という、ごく細いファイルから通していきます。

まるで、太古の恐竜の化石から一本一本の骨を掘り起こす、そんな感じです。

最近は機械で回すファイルもあります。でも、いちばん細いところは、手で通すのが基本。

じゃあ、急げばいいの?

いやいや、これが急げない。

無理をすると、削りかすが根の先へ押し出されて、治療のあとに痛みが出やすくなります(治療後に痛みが出ること自体は珍しくなく、多くは数日から1週間ほどで落ち着きます)。痛みが強くなる、腫れてくる、なかなか引かない そんなときは、次の予約を待たずにご連絡ください。

かといって、手前で止めてしまうと、根の先まで届かない。
届かなければ、そこに細菌が残ります。

じゃあ深ければ深いほどいいかというと、それも違う。行きすぎると、根の先の外の組織に負担がかかります。

根の先の、ちょうどいいところまで。 「根尖孔」といいます。
だから、ここに、いちばん時間をかけるわけです。

神経をとる治療でも

むし歯が神経まで進んで、痛みが強いなど、神経をとらなければならなくなった場合 「抜髄(ばつずい)」といいます。

抜髄は、多くの場合、細菌がまだ奥まで住み着く前。だから、管の治療そのものは、1回で終わることもあります。

ただ、すごく細くて長い根管の方がいるんです。細く長い管は、先まで器具を届かせるのが大変。抜髄が必要なほど進んだ歯では、細菌が神経の中に入り込んでいることも珍しくありません。管の先に感染した神経が残ると、あとで感染根管の治療が必要になることがあります。だから、感染が疑われるところまで、確かめながら進めます。

同じ抜髄でも、歯によって中身が違うんです。

終わりは、どう決めるの?

ファイルの先に付いてくる削りかすが、白くきれいになってくるか。
綿の栓が汚れていないか。においは残っていないか。

そういうところを見て、次に進んでいいかを見きわめます。細菌の培養検査もありますが、普段の見きわめは、管の中の様子で行います。

ちなみに、このファイル。当院では抜髄には新しいファイルを使います。感染根管治療でも、細いファイルは新しいものを使います。そして、ファイルはその患者さん専用。通院のたびに滅菌して使っています。

根管治療は、どのくらいかかるの?

通院は、だいたい1週間おき。薬の種類によっては2週間のこともあります。あいだを空けるのは、管の中に置いた薬が、日にちをかけて働くからです。細かい枝の奥など、器具の届かない場所は、この薬の力も借ります。

神経をとる治療でも、被せ物まで入れると、最速で1か月ほど。すでに感染している歯では、3か月から半年かかることもあります。

感染根管でも、1回で終えるやり方が研究されています。ただそれは、症状がないなど、条件がそろった限られた場面の話です。

回数は、目的ではなくて結果です。歯の状態(痛みや腫れ、細菌が入った深さ、根の形)で、必要な回数は変わります。半年かかったとしても、それは失敗じゃなくて、その歯に必要だった時間なんです。

お金の話を少しだけ

「そんなに通ったら、お金が、、、、、、、、」

ご安心ください。保険がききます。

3割負担の場合、2回目以降の通院なら、窓口負担は数百円ほどの日もあります。根管治療そのものは、全部合わせても数千円台。被せ物まで入れても、1万円前後です(被せ物の種類・歯の位置・負担割合で上下します)。

学生のころ、教授が『アメリカでは、この治療を最後までやると、車が一台買えるくらいだと聞いている』と講義中 話していました。そのときは、ピンときませんでした。今になって、その差に唖然としています。今の目安では、アメリカでこの治療と被せ物をすると、数十万円になることもあると言われています。

日本歯内療法学会は、2020年の診療ガイドラインで、日本の保険点数について「治療に要する時間に相当する診療報酬が設定されているとは言いがたい」と書いています。日本でも、保険外(自費)でこの治療を行う医院があります。

費用の詳しい話は、また改めて。

土台は、あとから直しにくい

うちの医院は、根管治療に大きな比重を置いています。
家で言えば、土台の部分だからです。

根管治療は、管を詰めて終わりではありません。土台を立てて、被せ物(や詰め物)まで入れて、やっと完成です。管の中に細菌が残ったり、上から細菌が入り込んだりすると、あとから再発することがあります。そうなると、もう一度根管治療をやり直すか 最悪の場合は、抜歯になってしまう。

家を建てるときでも 土台は大事ですよね。それと同じです。

土台は、あとから直しにくい場所です。
だから、ここには時間をかけて、確かめながら進めます。

と、まあ そういうことです。

奥歯のX線写真(当院撮影の参考写真)

当院撮影の参考写真
管の先まで、白い詰め物が届いているかを見る写真です

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次回は、根管治療の話の続きです。

かみふさ歯科診療所
電話 0276-62-0246


参考文献

  • 日本歯内療法学会編『歯内療法診療ガイドライン』永末書店、2020年
  • 日本歯内療法学会「2025年度 根管治療に関する調査報告」2025年3月24日
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  • RealDentalCosts「Root canal」(米国の費用の目安。民間の費用推計)
    https://realdentalcosts.com/en/root-canal/
  • 厚生労働省告示第69号(令和8年)歯科診療報酬点数表