
事件です。
いい事件です。
先日、南保育園の歯科検診に行ってきました。
当院がこの保育園の検診を担当するようになって、今年で24年になります。
南保育園の園医を務めているのは、当院の院長。
私は副院長として、院長とふたりで、この町の子どもたちを診てきました。
その検診で、今年——
ランパントカリエスのお子さんが、ついにゼロになりました。
24年間で、初めてのことです。
いやいや、感慨深い。
しかも、です。
この「ゼロ」、ただの「ゼロ」じゃないんです。
今日はその話をさせてください。
ランパントカリエスって、なに?
聞き慣れない言葉ですよね。
ランパントカリエスというのは、あっという間に、何本もの歯が一気にむし歯になってしまう状態のことです。
ふつうはむし歯になりにくい下の前歯まで、むし歯になってしまう。
進行すると、歯の見えている部分が溶けるように崩れてしまうこともあります。
きっかけとしてよく知られているのが、寝る前の甘い飲み物です。
果汁やイオン飲料を哺乳びんに入れて、飲みながら眠る。
その習慣が続くと、寝ている間じゅう、歯が糖分にひたされ続けることになるんですね。
誰が悪い、という話ではありません。
昔は「寝る前の甘い飲み物が歯によくない」ということ自体、知る機会が少なかったのかな、と思います。
うちの院長が担当し始めた頃は、こういうお子さんが、珍しくなかった。
それが毎年、少しずつ、少しずつ減っていって。
今年、ついに ゼロ。
検診当日、すべてのお子さんの口の中を診終えて、「あれ?そういえば 今年ランパントの子がいなかったね。」「本当だ。初めてじゃない?」「すごい!ついに!これは 事件だね。」という会話を院長と交わしました。
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日本中で、減っていた
「南保育園だけの話でしょ?」
いえいえ、まずは全国の数字を見てください。
厚生労働省のまとめによると、3歳児健診でむし歯のあるお子さんの割合は、2002年度の32.25%から、2020年度には11.81%へ。
3人に1人だったのが、10人に1人ほどになった計算です。
一人あたりのむし歯の本数も、1.39本から0.39本に減りました。

この20年で、日本中のこどものむし歯は、はっきり減ったんです。
めでたし、めでたし。
……と言いたいところなんですが。
でも、うちの町は
ここからが、今日の本題です。
当院のある大泉町は、実は、むし歯の多い町でした。
市町村ごとのデータがある2014年度で見ると——
むし歯のある3歳児の割合は、全国が17.69%のところ、大泉町は25.54%。
およそ4人に1人です。
その後も、2020年度をのぞく各年で、大泉町はずっと全国を上回り続けてきました。
「うちの地域は、10年前の歯科事情」
検診のたびに、そう感じていました。
数字は、その実感のとおりでした。

でも、このグラフ、よく見てください。
大泉町も、ちゃんと下がっているんです。
2014年度に25.54%だったのが、2024年度には9.83%まで(同じ年の全国は7.33%)。
ずっと全国より高い。それは事実です。
ただ、その差は、近年少しずつ縮んできています。
開業当初 28年前のことになりますが、その頃は当院でも ランパントは普通でした。
そのランパントカリエスとの戦いの毎日。待合は、そういう子供たちでごった返し、熱気に溢れていました。
(まあ うるさいって思う大人もいたかも。)
でもだんだん、日本人から ランパントの子は減り始めました。(それと同時に、子供たちがお利口さんになっていった気もします。あの熱気はどこに?)
今もまだランパントの子は来ていますが、少数です。
実は今日も診てきました。
その大泉で、ゼロ
もう一度、言いますね。
むし歯の多い町・大泉の保育園で、ランパントカリエスの子が、ゼロになったんです。
もともとむし歯の少ない土地での「ゼロ」ではありません。
全国より高い数字と、ずっと向き合ってきた町での「ゼロ」です。
重みが、違う。
だから最初に「事件です」と言ったんです。
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なぜ、減ったのか
むし歯を消す魔法が発明されたわけではありません。
変わったのは、毎日の暮らしのほうです。
その1。おやつの与え方。
今の子育てでは「甘い物を禁止する」のではなく、「時間を決めて、だらだら食べさせない」という考え方がほぼ定着しました。
診療中も毎日のように、甘いものはダラダラ食べない、ゲームとかしながら、お友達とだべりながらはやめてね。 甘いもの食べてる間中 ずーーーっとむし歯が進んでると思ってね。と口酸っぱく言ってきました。小学校の歯科指導でも、甘いものを食べるなと言ってるんじゃない。食べ方の問題。そしてその後の歯磨き!と。
その2。母子手帳と、乳幼児健診。
1歳半健診、3歳児健診。
いま当たり前に受けているこの健診で、歯のチェックと仕上げ磨きの指導がセットで行われるようになりました。
むし歯が「できてから治すもの」から、「できる前に気づくもの」へ。
入り口が変わったんです。
その3。フッ素と、仕上げ磨き。
歯医者さんでフッ素を塗ってもらったことのある人の割合は、2005年度に初めて半数を超え、2016年度には62.5%になりました。
その4。定期検診が、当たり前になったこと。
そういえば少し前まで、たんぽぽ教室という町の歯科事業がありました。子どもの歯科検診とフッ素塗布のイベントです。
そこで、うちの院長が毎回、熱弁をふるっていたことがあります。
——治していないむし歯を抱えた大人の唾液からは、むし歯菌がうつります。だから、口の中でかみ砕いたものを赤ちゃんにあげたり、自分の箸やスプーンで離乳食を食べさせたりするのは、避けてほしい、と。
もちろん、きちんと治療して口の中が健康な家族の、ふつうの触れ合いまで恐れる必要はありません。問題は”未治療のむし歯”のほう。そこを、勘違いしないでほしいんです。
どれも、劇的な話ではありません。
でも、この小さな積み重ねを、大泉の保護者のみなさんも続けてきた。
全国より高いところからの、スタートで。
その積み重ねが、今年の「ゼロ」なんですね。
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ゼロという数字
検診を終えて、記録用紙を見返しました。
24年前の私に、教えてあげたい。
「その保育園、いつかランパントカリエスの子がいなくなる年が来るよ」って。
きっと、信じなかったと思います。
「うちの町だよ?」って。
この「ゼロ」は、私の手柄ではありません。
毎晩の仕上げ磨き。時間を決めたおやつ。健診に足を運ぶ手間。
名前のつかない小さな努力が積もり積もって、今年の「ゼロ」になりました。
共働きの多い町で、自分の歯磨きを投げ打って、お子さんやお孫さんの仕上げ磨きをありがとうございました。
自分のお箸ではいアーーんと食べさせれば早いのに、いちいちスプーンやお箸を持ち替えていただきありがとうございました。
スーパーで甘いお菓子を前に駄々をこねるお子さんに、ダメ出しをして下さってありがとうございました。
お母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃん、可愛いお子さんやお孫さんのために、毎日毎日の愛をありがとうございました。
来年も、ゼロでありますように。
参考文献
- 気付いたら虫歯だらけに ~幼児のランパントカリエス~(岡山大学病院 仲野道代教授)|時事メディカル
https://medical.jiji.com/topics/3144 - 厚生労働省「地域保健・健康増進事業報告」3歳児むし歯有病者率等の年次推移(ライオン歯科衛生研究所による集計)
https://www.lion-dent-health.or.jp/statistics/3_mushiba/ - 全国乳幼児歯科健診結果(市区町村別・都道府県別データ)|国立保健医療科学院
https://www.niph.go.jp/soshiki/koku/oralhealth/infantcaries.html - フッ化物歯面塗布|e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-02-008.html - 妊産婦,乳児及び幼児に対する歯科健康診査及び保健指導の実施について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc_keyword?keyword=%E4%B9%B3%E5%B9%BC%E5%85%90%E5%81%A5%E5%BA%B7%E8%A8%BA%E6%9F%BB&dataId=00tc1207&dataType=1&pageNo=1&mode=0